こんにちは。会議通訳のあひるです。
プロフィールにも書いていますが,通訳専業も10年を超えました。10年もすると本当に様相が変わりますね。通訳としての働き方もだいぶ変わった気がします。今日はそんなあれこれです。
十年一昔
このところしばらく書いているAIさん。オンライン会議ではもうかなりの精度の自動翻訳が表示されるようになりました。
仕組みとしては音声認識+自動翻訳。(使われる場面に通訳は呼ばれないので)私は現場に立ち会うことはないのですが,技術的には(オンライン会議のみではなく)対面でも充分使えるはず。
そもそも2020年のコロナウイルス流行までオンライン通訳,つまり家から出ないで通訳ができる(!?)なんて考えられなかったわけです。
本当に変わったものだと思います。
二極化する(気がする)通訳稼業
さて,この音声の自動翻訳。技術的には充分可能です。
コストや効率を重視される場面ではどんどん活躍されていくでしょう。
しかし同時に,じゃあ首脳会談がTeams自動翻訳になるか,天皇皇后両陛下が国賓をお招きになる場が機械翻訳になるかと言われると,『現時点では』まだ完全に機械化はされないと思うのです。
これはもちろん,技術的な話ではない。やはり海外の重鎮と対話をするにあたって,現時点ではまだAIでは礼節が保てないことがあると感じるからです。
このあたりも二極化していくのかもしれませんね。
通訳の役割あれこれ
この『礼節』が問題になる場面。私も通訳として,よく遭遇します。
私は主にビジネス分野で通訳をしているので,基本的に伺うのは企業の会議。社内会議に伺うこともありますが,企業同士の対話にもよく立ち会います。
A社がB社を訪問するとします。その場に外国人を連れて行きたい。
A社としてはしっかりとした信頼関係を築きたく,礼節を欠くわけにはいかない。B社は典型的な古き良き日本企業,いきなり英語でまくし立てるのも気が引ける。こちら側の外国人に日本のビジネス慣習を理解しない発言をされても困るし,相手の微妙な機敏を察していない発言をされても困る。なんとなく先方も英語は話せる気はするものの,やはり万全の体制で挑みたい。
こんな場面で呼ばれる時,我々通訳の役割は言語の翻訳ではなく人と人との橋渡しです。以前『難しい』は難しい:言葉ではなく意味を訳す難しさという記事を書いたのですが,これがまさにいい例。言葉云々を超えて異次元で生きる人たちをつなぐ役目です。
消える消えると言われながら,消えるにはまだまだ時間がかかりそうな通訳業。日常的に通訳をお呼び下さる方は,このあたりを評価頂いているのかもしれませんね。
世のビジネスの基本のき
政治,経済,ビジネス,すべての基本は人間関係です。
通訳というと『英語にする』ところばかりが注目されがちですが,ことの本質は人と人との橋渡し。日々いろいろな対話に立ち会います。
10年以上も有象無象の人間の対話というものを見てきたからこそ思うのですが,信頼に基づく良好で建設的な人間関係さえあれば大抵のことはうまくいきます。ことの本質は予算がどうとか技術がどうとかではない,本当に。
そんな日々を通して思うこと。言語翻訳だけが自動化されていくと,この異文化というか異次元の人たちをつなぐ役割が今以上に求められるようになる気がするのです。しかも言語化されない暗黙知のスキルとして。
これからのビジネスパーソンに求められること
異次元の人たちをつなぐということ
突然ですが,勝負どころの会議になると必ず呼ばれる重役の右腕的な人っていませんか?
社運をかけた英語での交渉の場などで右腕として社長の隣に同席し,細かい進捗やらスケジュールやら予算やらデータやら社長の目の届かない詳細をすべて把握しつつ,同時に大枠をしっかり見据えて具体策を詰めていく人。
つまり,経営層と現場との橋渡しをしている方々です。まったく異なる役割,視点,利害,そして(同じ日本語でありながら全く異なる)言葉で仕事をしている両者をつなぐ役です。
唐突なたとえだと感じられるかもしれませんが,海外の文化,慣習,そして言語が違う人たちとの橋渡しをするというのは,こういった感じに近い気がするのです。
言葉の壁だけが消えた先
通訳というと,どうしても言語運用能力ばかりが前面に出がち。しかし同時に,この異文化というか異次元な人たちをつなぐ役割,という立場になっていることも多いです。
もちろんこれは通訳だけがやっているわけではない。日常的に英語で会議を行なっているような立場の方は皆さんそれぞれ暗黙のうちに行なっていることです。
英語をはじめとする外国語を学び,仕事でもしっかり使っていくことで相手国の文化を知り,考え方を知り,日本と相対化することで『あ,ここが違うんだ』という経験が個々人に蓄積されていきます。
英語で仕事をする時には,おそらくその違いを(ごく無意識に)頭に入れて対話を行なっていると思うのです。
言語翻訳のみが自動化されて一見言葉の壁が消えると,英語を話せる話せない,海外経験のあるなしにかかわらず言葉を超えたコミュニケーションが可能になりそうです。
そうするとこの『異文化の人を理解できる(言語化されない暗黙の)スキル』を持っているか否かって,結構重要になってくる気がするのです。
先ほどの社長の右腕の例。
完全に立場も視点も異なる経営層と現場の両方をなぜかしっかりと理解して繋ぐことができるこういう方々,あまり数は多くない上に普段どんな視点を持っていてどんな働き方をしているのか,なかなか見えてこないのではないでしょうか。
同じように,通訳がごく自然にやっている異文化(というか異次元)の人たちをつなぐ視点,これをうまく言葉でお伝えできたら,仕事に悩むビジネスパーソンの方にヒントになるのではと考えています。
そんなことも,この場でうまくお伝えできたらと思ってこのブログを書いています。
前々回詳述したのですが,英語力は二極化してくる(気がする)現在。ビジネスパーソンに求められるものも,少しづつ変わっているのかもしれませんね。一緒に頑張りましょう,Bon Voyage!

