【読書案内】人というものを知り尽くしたトヨタ奥田氏【トヨトミの野望】

ビジネス書

こんにちは。会議通訳のあひるです。

昨日13日の日経新聞朝刊第1面,トヨタ自動車元社長・奥田碩氏の訃報が掲載されていました。

この奥田氏時代のトヨタは伝統的日本企業のすべてを体現しており,そしてこの奥田氏自身は伝統的日本企業のすべてに立ち向かった方だと感じます。

私がそれを知ったのが『トヨトミの野望』。
今日は昨日の訃報に寄せて,奥田氏の功績,そしてそのあり方のわかる本書をご紹介します。

(これから読まれる方もいらっしゃるでしょうから具体的ストーリーには触れず,私が感じたエッセンスに焦点を当てて書いていきます)

ページの止まらない『トヨトミの野望』

はじめにお断り。私は通訳としてこの奥田氏にお会いしたことはありませんし,奥田氏時代のトヨタ自動車にもお伺いしたことはありません。

奥田氏の社長ご退任が1999年,会長ご退任が2006年,取締役ご退任が2009年ですから,私自身はまだHelloと言われましても,なんて言っていた頃。

私がご活躍を知ったのは,10年前の2016年に刊行された小説『トヨトミの野望』。

これは愛知県豊臣市という架空の市の,トヨトミ自動車という架空の自動車会社をモデルにした小説。著者は覆面作家で本業は経済記者と言われています。

圧倒的権力を持つ創業家の会長:豊臣新太郎,サラリーマン社長:武田剛平,のちに社長となる御曹司:豊臣統一を中心に描かれる自動車企業の様々な内情。

小説,つまりフィクションということになっていますが,あまりに内情が似すぎているということでトヨタ自動車から圧力がかかり,名古屋の本屋からは本が消えたとか。

ひとつの事実として初版単行本は講談社,文庫は小学館刊行です。単行本がこれだけ売れたのに文庫化が他の出版社って相当ですよね。

私はもちろん,どこまで事実かは知りません。

しかし私自身は10年以上,通訳として様々な企業の会議,ありとあらゆる意思決定の場とありとあらゆる情報交換の場に立ち合ってきました。その感覚から言うと,ものすごくありがちでリアル。

実は海外に行く飛行機の中で読み始めたのですが面白すぎて止まらず,10時間のフライトはもちろんその後のフェリーでも読み続け,美しい海の景色もカフェのコーヒーも逃しました。新幹線じゃなくてよかった(絶対に乗り過ごした)。

人を動かす力,人がついてくる力

奇しくも私はちょうど前回,AI時代の通訳稼業という記事の世のビジネスの基本のきという項で,信頼に基づく良好で建設的な人間関係さえあれば大抵のことはうまくいく,と書いたばかり。

この『トヨトミの野望』の武田剛平社長が故・奥田氏ではないかとされている(というか暗黙の了解というか公然の事実というかな)わけですが,結局この武田氏はまさに人というものを知り尽くした方だったのではないかと思うのです。

企業におけるコミュニケーション

企業というもの,もちろん利益を第一目的として活動しています。そこでは当然,どのような方向へ行くべきかという戦略・方針を決め,具体策を決め,実行していきます。

同時に企業というのは,個としては全く異なる目的とエゴと利害を抱えた人間が集まって,互いの妥協点を探りながらひとつの方向を決めていく場でもあります。

そうすると,世の企業どこを見ていても意見そのものより『誰が言ったか』『誰の意向か』が重要となってくるような場面も,時に,いや,日々遭遇します。正しいことを言えば通るような甘い場所ではない。

その中で自分の信念・やりたいことを貫くには,結局のところ関係者の利害・ツボをしっかりと押さえ,それを軽んじないコミュニケーションをとること。

トヨトミ武田剛平に学ぶコミュニケーション

あくまで私の推察ですが,トヨトミの武田剛平社長というのはこのツボ,人を見抜く抜群の力を持っていらしたのではないかと思うのです。

この人にとって譲れないポイントはここなんだな,そういう関係者ひとりひとりの利害がごく自然に見え,そしてそれを軽んじず,その相手のツボをしっかり押さえたコミュニケーションを取っていく。この難しいことを,ごく自然にできる方だったのではないかと思うのです。

そうではないと,天皇家かと見違えるような血統ありきの組織の中(本家か分家かが問題になるとかすごいですよね),真にやるべきことをやり抜くなんて絶対にできないし,そこに人がついてくることも絶対にない。真摯にすごいと思います。

国を超えたコミュニケーション

そう,企業というのは,それぞれ全く異なる利害とエゴを抱えた人間が集まって,互いの妥協点を探りながらひとつの方向を決めていく場。

ですから日本企業に限らず,どんな国の企業であってもやはり絶大で壮大な社内政治というものは存在します。大企業なら尚更。

しかし同時に,やはり日本企業でキモになりやすいポイント,アメリカにおけるビジネスで気を配らないといけないポイント,そういった『その国らしさ』も存在するのも事実。

通訳として日々国をまたぐ意思決定に立ち合う中で思うのですが,この自分の国とは違う『ツボ』を押さえ,(知っているだけではなく)実際に大切にするって本当に難しいんです。

自分の国では大した問題にならないポイントをふとした時に軽んじてしまって信頼関係にヒビが入る,なんて日常茶飯事。

この,当たり前だけど難しいことをしっかりなさっていたところに凄みを感じます。

日本でものすごく典型的な日本企業文化の中で日々ビジネスを行い,意思決定を強いられていればそれに慣れてくるのが人間というもの。

それでも外の視点を絶対に忘れず,マニラに行けばマニラ式,アメリカに行けばアメリカ式のやり方でしっかりコミュニケーションを取るというのは,そう簡単なことではありません。

やはり人を見る目に長け,そして(実際の態度はどうあれ)どこまでいっても必要な人を大切になさる方だったのではないかと思うのです。

安らかにお眠りくださいますよう

最後に。これはあくまで私の推測ですが,奥田氏はご自身のトヨタ自動車における道のりについては公式の社史よりもこの本を読んで欲しいのではないかとも思うのです。

昨日13日木曜の日経新聞朝刊によれば,亡くなる直前までトヨタ自動車を気にかけていらしたとのこと。こういう骨のある経営者が日本に増えたらと思うのですが。

安らかにお眠りくださいますよう。

2026年8月
 12
3456789
10111213141516
17181920212223
24252627282930
31  

アーカイブ

カテゴリー

【会議通訳あひるのプロフィール】

元:英語の苦手なシステムエンジニア。30目前の初・海外駐在をきっかけに英語を勉強して通訳に転身,現在キャリアは十数年。カナダ人夫,2男1女と日本在住。

プロフィール・このブログのご紹介
運営者情報

タイトルとURLをコピーしました