【海外未経験から通訳まで③】通訳者養成スクール,私の体験記

私が通訳になるまで

こんにちは。会議通訳のあひるです。

私は海外経験もなく,社会人になってから英語を勉強して会議通訳になりました。そんな私の学習歴をお話しています。

前回通訳スクールってどんなところか,一般的な話をお伝えしました。3回めの今回は私自身の体験記。ありのままお伝えできればと思います。

あひるの通訳スクールひよっこ体験記

通訳スクールの大変さ

前回お話したとおり,通訳スクールでは日々しっかりと予習・復習に努め,授業中の演習では一定の品質の通訳パフォーマンスを出せるようでないと進級・卒業は難しい。

同時にどれだけ授業中に訳ができても,しっかりと基礎力を上げて期末試験で初見のものを一定の品質で訳せないと進級・卒業はできない。

今になって振り返ると結局,『(何をしたらいいという明確な指標のない中で)どうしたら伸びるのかわからない!』と,先が見えないまま努力し続ける感じがしんどかったのかと思います。

当時の私は基礎的な英語力が足りなかったのはもちろん,そもそも腰を据えて英語を勉強した経験がない。『自分の能力を客観的に評価し,必要なものを判断して着々と実行する』という当たり前のことをしたことがなかったのです。

今だからわかる,通訳に必要な基礎力

ちなみに通訳になった今,通訳スクールに太刀打ちできる英語力をつけたいというご相談には茅ヶ崎方式・新英語教本の中級を完全にマスターすることをお勧めしています。

上級ではなく中級で充分。ただし完全にマスターしてください。

『完全にマスター』とは,英語音声が聞こえたら(発音やイントネーション含め)まったく同じくリピートでき,書けと言われたら書き起こせ,訳せと言われたら日本語訳が出せ,日本語訳が聞こえたらテキストのとおりの英文が口をついてくる状態。

これができれば通訳学校に耐えうる基礎力は充分身につきます。本当に。

そう,実際にやらなくてはいけないことってこのくらいなんです。大変ではありますが雲を掴むような話ではない。

先の見えない日々

しかし当時は基礎的な英語力もなく,さらにひよっこあひるは通訳スクールなんて殿上人の集う場所だと思っています。当然あれもこれもできないといけない気がしてきます。

ちょっと知らない表現が出てくると,やっぱりニュースを理解できるようにならなくちゃ,英字新聞も読めるようにならなくちゃ,あれもこれも,わぁわぁわぁ。

優先度の低いものを切る難しさ

これはいつかまとめて記事にしたいと思っているのですが,『やった方がよさそうなもの』をあれもこれも頑張るのは意外と簡単。思考停止すればいいだけ。

しかし最優先ではないものを削って今本当に必要なことだけに集中するのってすごく難しい。『切る』って勇気がいるんです。

10年以上経って振り返ると,通訳学校で皆さん一生懸命努力されているのに4,5ヶ月という学期期間で進級するのが難しいのは,そのあたりも大きな要因のように思います。

当時の私もまさにそんな感じ。
能力もないのに英字新聞なんて買ってみて,無駄な時間を過ごした挙句に落ち込んでみたり。いろいろと遠回りをしてきましたが,振り返ると結局このあたりに大きな原因があったように思います。

あひるのひよっこ訓練中の1日

基礎クラス在籍中の1日

通訳スクールに通い始めた当初は,9:00-17:00で有期の英文事務や簡単な翻訳の仕事をしながら通訳学校に通っていました。当時の生活はこんな感じ。

朝,まずは家でしかできないことを

まず朝。仕事のあれこれにも惑わされず脳がフレッシュな朝はとても貴重なので,とにかく朝の時間に集中して学習できるよう努めていました。

当時の私はなかなか家で集中できなかったのですが,それでも家でないとできないこともあります。それは,声を出すこと。

朝起きるとまず最低30分,発音練習や音読,シャドーイングなどをしていました。

終了すると簡単にお茶を飲んだり身支度をしたりしますが,耳は空いているのでその時やっている英語教材の音声を復習がてら聞いています。

この時期は新しいもの,聞いてわからないものをいくら聞いても無駄。それよりも前日までに終わった教材を何度も繰り返し聞いて,ひとつひとつ着実に自分のモノにしていくのが吉。

そしてとにかく早く,家を出ます。

始業前,いちばんの集中タイム

そして職場近くのカフェに開店と同時の7時に入ります。ここから始業に間に合う8時半頃までの90分が1日の本丸,一番集中できる時間。

ここは通訳学校の予習復習,宿題の英文記事,自前のテキストなど『その日のメイン学習』に充てる時間。

朝の頭がフレッシュな時間の90分って本当に捗ります。その時に最も集中力が必要なことを,この時間にやっていました。

昼休みや終業後は朝の続きを

昼休み,終業後も基本的には学習時間。しかし朝と違うのは,突発事項が入りうること。

昼休みは近くのレストランやカフェで,終業後は近くの図書館で閉館の22時まで,朝やったことの続きや復習を行なっていました。

この時間は仕事の状況によって時間がずれたり疲れ切っていたり,予定どおりにいかないこともあります。

そんな時間帯に新たな内容を計画してうまくいかないと,無駄に落ち込みがち。こういう時は新しいことはせず,その時に終わっていないことの続きや復習をしていました。

これは学習の段階によって変わりますが,初中級では1日にそんなに多くの内容はこなせません。何をするにも時間がかかるし,むしろしっかり時間をかけ,ひとつひとつを自分のものにしていく時期。こちらの記事で詳述しています。

この頃は昼休みや終業後を,このような時間に充てていました。

スキマ時間を徹底活用する私のコツ

この頃はとにかく時間があれば基礎力向上と予習復習。スキマ時間を徹底活用するポイントは,

  • 家でしかできないこと(発音・発声練習や音読,シャドーイングなど)
  • 外でもまとまった時間が取れたらできること(テキスト学習など)
  • スキマ時間でもできること(リスニング音声や単語の復習など)

を,明確にわけておくこと。

その上で生活サイクルに合わせ,できる時にできることを入れていきます。

中・上級クラス在籍中の1日

次回お話しますが,中上級クラスを受講する頃は既に社内通訳の仕事を始めていました。

生活パターンは基本的に同じ。しかし学習サイクルで,大きく変わったことが2つありました。

インプット,インプット,インプット!

ひとつめの変化は,この頃にはそこそこニュースも聞け,新聞も読めるようになっていたこと。

基礎クラス在籍時は初めて聞くニュース音声なんて聞いても理解できなかったので,学習効果ゼロ。だから耳が空いている時にできることは『一度やった音声の復習』のみでした。

しかし次第に新聞やニュースなども理解できるようになってきます。

たとえば朝の身支度中や通勤中にその日の最新ニュースを英語で聞いておくと,その日通訳を行う会議で同じ話題がでることも。

それまではニュースは腰を据えてじっくり読まないといけなかったものが,初めて聞くものからもしっかりインプットでき,知識にも学習にもつながる。インプット効率が大きく変わりました。

当時聞いていたのは,NHK World Japan(NHKが多言語でやっている国際放送チャンネル)のニュースポッドキャスト。これは日本の時事トピックを英語で聴けるという点でおすすめです。

仕事⇄学習の好循環が回り始める

ふたつめの変化は,通訳専任のポジションについていたことで業務時間がそのまま『学習時間』『インプット時間』となったこと。

専業通訳ですから会議の合間は基本的に次の通訳会議の準備時間。つまり直前の会議でわからなかった表現を調べて次に備えたり,次の会議トピックについての英日表現を調べたりしています。

そうすると英語表現のストックが増えるのはもちろん,仕事中ちょっとでもわからないことや気になることがあると,堂々と英語を勉強できるようになる,というよりむしろそれが仕事。

これは以前,英文事務などをしている時には決してできなかったこと。学習効率の面で,非常に大きな変化でした。

通訳学校で教えてくれること

独学で通訳になることは可能?

ここまでお話して,こんな疑問を抱かれるかもしれません。『通訳ってみんなこんなことしないとなれないの?』と。

もちろん私のスタート地点が低かったので,他の方よりハードルが高かったという側面は(大いに)あります。

しかしそれでも,会議通訳の方は通訳スクールや海外大学院など,なんらかの形で専門のトレーニングを経験している方が多いです。

そのような現実があるため,私自身も時々『独学で通訳になることは可能なのか』というご質問を頂きます。

結論から言えば可能で,実際スクールに行かず通訳になる方も稀ですがいらっしゃいます。

独占業務ではない通訳業の性質

前回少し触れましたが,現時点で日本に通訳の資格として有用なものはありませんし,もちろん独占業務でもありません。

ですので,『可能か不可能か』と聞かれれば可能です。通訳として使って下さる方がいれば,それであなたも通訳です。

しかしこの質問の背景には,なんとなく通訳スクールというものへの誤解がある気がするのです。

『通訳学校というのは通訳になるために必要な知識を教えてくれるところで,それを習得すれば(誰もが)通訳になれるのだろう』と。だからこそ『その(なにやら特別な知識やら訓練やらがないと)通訳にはなれないのか』という疑問が生まれるのではないかと思います。

通訳学校で教えてくれること

しかし前回と今回でお伝えしているように,残念ながら『これさえ習得すれば通訳になれる』知識,『これさえやれば通訳になれる』訓練はありません(『これを知らないとまずい』知識,『これはやっておかないとまずい』訓練は多々あるのですが)。

では通訳スクール,結局のところ何を教えてくれるのか?長い時間を過ごした私の結論は,突き詰めれば2つ。

  • 自分で能力を伸ばせるようになる学習方法トレーニング方法
  • あなたのパフォーマンスへの客観的な評価(日々のフィードバック)

結局のところ,スクールで教えてくれるのはこの2つなのだと思います。

通訳学校で私自身が学んだこと

ではトレーニング方法を知っていて,フィードバックを得られる仕組みがあれば通訳スクールに意味はないのでしょうか。

もし『通訳スクールに通っただけで必要な知識・スキルが身につく』ことを期待するなら,やめた方がいいかもしれません。お金と時間の無駄になる可能性があります。

しかし,私自身は行ってよかったし多くを学びました。『スクール側が教えてくれること』を超えて私自身が学び取ったことは以下の2点です。

  • 自己分析法と自分のためのトレーニング法
  • 最重要:英語はやればできるという事実

ひとつづつ見ていきます。

自己分析法と自分のためのトレーニング法

通訳スクール在籍中は詰まるところ,『4,5ヶ月後の期末試験(もしくは卒業試験)で何が出ようが一定のパフォーマンスで訳せる状態』を目指して基礎力向上に努めます。

『これさえ覚えれば通訳になれる』という知識がないからこそ,自分の能力を客観的・大局的に見極め,何が足りないかを自分で考え,それを埋めるためには何が必要かを自分で考え,その結果を試行錯誤していきます。

通訳スクールではパフォーマンスにフィードバックを頂けると書きました。勉強法もそう。第一線で活躍する講師陣がそれぞれに効いた学習法やトレーニング法を惜しみなく教えて頂けます。

同じミスでも要因は人それぞれ

しかし例えば『文法ミスがある』『時制がおかしいことがある』と言われた時,その要因や背景は人それぞれです。

純粋な英文法の知識のこともあるし,音が取れていないから間違えていることもあるし,聞いた内容をしっかり覚えていられない(リテンションと言います)から間違えていることもあるし,リスニングや英訳の構成など他の要素に負荷がかかりすぎていて(頭では知っていても)うまく注意を払えていないこともある。

結局同じ問題でも要因はそれぞれ異なります。それをひとつひとつ自分で分析し,必要なことを見極め,克服していく必要があります。自分の困難は自分で分割しないといけないのです。

効果的なトレーニング法も人それぞれ

講師の先生方のアドバイスや経験談もそう。

第一線で活躍されている様々な先生方に教えて頂けることは大きなメリットですが,それぞれの背景や効果的だったトレーニング法はやはり人それぞれです。

教えて頂けるのはあくまで『ある個人に有効だった方法』。それを充分に参考にしながら,結局は自分に合う方法は自分で見つけていかなければいけないのです。

一生モノの自己分析スキル

こういった試行錯誤を重ねていくと,『自分に今足りないものを見極める』『欠点を具体的に絞り込む』『今必要なトレーニングを見極める』といったスキルが身につきます。

この一生モノの分析スキル,そして自分にあうトレーニング法。これは私が通訳スクールで学び取った,大きな果実です。

最重要:英語はやればできるという事実

しかしより大きな成果。それは『英語ってやれば結構できるようになるんだ!』という圧倒的な事実。これこそが私が学んだ最も重要なこと

通訳スクールに行って始めに驚いたこと。それは時々とんでもないスピードで伸びていく人がいるんです。正直これを間近で見られたのは,私が通訳スクールに行ってよかったと一番に思うこと。

通訳スクールでは授業中にクラスメイトの訳出を聞く機会が多くあります。そうすると,いろんな方がいらっしゃいます。

  • 始めは(失礼ながら)ごく普通だったのに途中からビックリするくらい上手くなる人
  • 英訳を聞く限り(失礼ながら)おそらく日本で英語を習得されたであろう方ながら,訥々とながら絶対に間違えず,常に安定してピタリはまる訳が出てくる人

どちらもすごい努力を感じます。

英語が苦手だと,なんとなく自分が苦もなく話せるようになるって信じられなかったんです。そして誰しも,成果を信じられないと日々の努力はできません。

でも結局私を一番変えたのは,こういう方々を間近で見られたこと。

あ,こういうことってできるんだ!という目から鱗の原体験があったからこそ日々学習が続けられ,結局私も通訳になりました。

独学で通訳になることは可能?再び

ここで先の質問に戻りましょう。『独学で通訳になることは可能なのか』。

既にお答えしているとおり『可能か不可能かと聞かれれば可能』です。しかしより正確に表現するなら,『学校に行く行かないに関わらず独習必須』といったところではないでしょうか。

そしてその試行錯誤の過程で,自己分析の手法や自分にあった学習法・トレーニング法をそれぞれに身につけていきます。

そして続けていると成果が出るので,それぞれの『あ,やればできるんだ!』という経験を通じてさらに学習を続けてスキルや能力が上がる。

結局のところ皆さんこうして通訳になられるのではと感じています。

ただこの過程,あまりにつかみどころがなかったために苦労をしたことも事実。あの頃もう少し具体的な手がかりがあったらとも思い,このブログを書いています。(このブログはほとんど,過去の私にアドバイスしたいことです)

如何でしたか?通訳スクールについては以上です。次回は最終回として,『英語を話したい!』から通訳になるまで,キャリアの変遷を中心にお伝えします。

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